金融インハウス求人は激減したのでしょうか?
ジャスティさん、こんにちは。
私は学生時代からそれなりに真面目に勉強し、幸い成績も悪くなく、優秀な学校を卒業しトップ事務所に就職しました。これまで複雑な取引も数多く担当し、弁護士としての市場価値はそれなりにあるのではと考えております。私は最終的に金融インハウスを希望しておるのですが、最近は金融インハウスの求人が少ない気がします。これは東京が香港やシンガポールに追い越されてしまったからなのか、それとも世界的な経済の影響なのか、理由はどこにあるとお考えですか。
私にもまだ金融インハウスに就くチャンスはあるでしょうか?あるとしたらどうすればよいのでしょうか。
意気消沈している金融弁護士より
意気消沈している金融弁護士さんへ
正確な数字がないので確信はありませんが、感触としては2008年以来東京では外資系金融での仕事(法務に限らず全体として)は35-45%程失われていると思います。実際、リーマン・ショック前から人や仕事は香港やシンガポールに移り、重複している職務がカットされたり、縮小されたりしていました。これは市場としての東京(つまりは日本全体)が魅力的でなくなったことが要因です。バンカー達にとっておいしいディールが少なくなった為、みんなもっと収穫が多そうなところに行ってしまったのです。 金融危機によって日本全体で雇用の減少が加速されたことは事実ですが、それと同時進行で日本という市場に魅力がなくなった事が求人数が少ない大きな要因です。
しかし、まだ東京で営業している銀行やアセット・マネジメント会社は存在しますし、そのほとんどがリーガル・チームを持っているのも事実です。では何故求人が少ないのか?
いくつか理由は考えられますが、まず、すでに十分な数のインハウス弁護士が市場に存在している、ということが考えられます。この10年で弁護士の数が飛躍的に増えておりますが、それに伴い金融インハウス弁護士も増えました。今の東京の市場規模から考えると、インハウス弁護士の数は適正なのかも分かりません。
第二に考えられるのは、現職の弁護士が辞めない、ということです。辞める人がいなければ空きが発生しないのですから、当然求人は出ません。日系企業における新卒採用であれば成長を見越した投機的採用もありますが、費用対効果を厳しく管理する外資系金融機関ではニーズがない状態での先行採用はまずありえません。
辞めない弁護士が問題なわけではありません。東京では、金融インハウス弁護士をしていた人たちが、今の仕事を辞めたくても、他に行く場所がないということが大きな問題となっています。日本ではまだ、こういう人たちが働ける新しい業界、新しい仕事を創出されていないというのが現状です。これが目詰まり状態ができてしまう原因です。海外ではシニアの金融インハウス弁護士はヘッジファンドやコンサルティング会社に移ったり、自分たちの専門分野に特化した事務所を立ち上げたり、別の業界でのシニア・カウンセルのポストに就いたりしています。東京では金融の給与に比べ、多国籍企業インハウスの給与は低いため、金融リーガルを退職するというのは、解雇になった場合か、その人が仕事やライフスタイルを抜本的に変えようと思っているかという理由によります。いずれにしろ、あまり起こることではなく、従って新規雇用も滅多にないのです。この流動性の低さが現在の求人不足の根底にあります。
それで肝心のご質問、どうすればインハウスでの金融リーガルのポストにつけるかについて。
1990年代後半から2000年半ばにかけて市場は活況でした。ただこの時期は例外であって、あれが当たり前だったのではありません。現在求人の数は減り、少ない仕事を巡って競争が激しくなっています。こうした中、他の候補者よりも目立つには、ご自身の経歴が個性的であることが重要になります。これはどの業界でも言えることです。私見ですが、アソシエイトたちには、トップのファームに務め、一生懸命働けば、そのご褒美としてインハウスの仕事を頂けるという甘い思い込みが、1990年代後半から今に至るまでずっとあるように思います。ある程度それが事実であるとしても、それはトップクラスのパートナーと一緒に働くトップクラスのアソシエイトだけについて言えることです。もしあなたがそのトップクラスのアソシエイトでないのであれば、自ら律して、自分のキャリアを築くことが必要です。
自分自身の経歴を(厳しい目で)値踏みしてみましょう。卓越したバイリンガル・スキルを持ち、所内でもその功績を認められ、最大級の取引の担当責任者であるならば、そのままでもインハウスへの道もあるかも分かりません。あなたがそんなアソシエイトでないのであれば、戦略的にキャリアを築く必要があります。
どうすれば良いのか。今現在もしくはこれから需要が高まりそうなスキルを見つけ出し、その経験を積むのもひとつです。今現在の話ですが、もしあなたがジュニアの弁護士で、投資信託に関わる経験をお持ちなら、今当社黒坂大があなたにぴったりの案件を2件扱っています。これらの求人は投資信託の専門かとしてインハウス弁護士になるものではありません。投資信託をステッピング・ストーンに入社し、証券サイド業務全体を見るものです。資金の豊富な日本では、投資信託知識を必要とする求人が一定レベル残ってゆくと推測されます。投資信託そのものは派手でありませんが、経験を持っておくことで他者と差別化できるキャリアの始まりに立つこともできます。
ただ事務所のパートナーに言われるがまま仕事を担当し、流れに任せるだけでは事務所の外で通じるキャリアを構築することは難しいです。
私は以前コンプライアンスへの転職についても書いておりますが、こちらも有効な選択肢です。(弁護士、レギュラトリー、&2ステップを参照のこと)。
私の好きな理論ですが、「小さな公園の大きな犬」という考え方があります。あなたの一番の武器と履歴書を持って、あなたが「大きな犬」になれるところに行くのです。例えば保険や再保険の業界では、資格のない弁護士がトップ経営陣の籍に座っている例がいくつもあります。また、規制のある業界は他にも数多く存在し、社内に弁護士を抱えている例は極めて稀です。リテール製薬業、オンライン製薬業、テレコミュニケーション業、石油ガス業、輸送業。きっとあなたが興味を持てる業界や企業があるはずです。もう一度言いますが、「小さな公園の大きな犬」の理論です。そうやって見方を変えると、ご自分でもびっくりするほど選択肢が増えると思います。
少しでも貴殿の参考になれば幸いでワン!
ジャスティ